【実体験】金融系SIerの仕事内容、現場の状況、将来性などの実態
将来、ITエンジニアを目指す方にとって、SIerへの就職や転職を考えている人もいらっしゃるでしょう。
SIerという言葉は知りつつ、興味があっても、正直、SIerが何をするのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では現在、20歳後半でフリーランスエンジニアをしている筆者が、SIerとはというところから、実際に金融系SIerとして働いた経験を元に、特長や必要とされるスキルをわかりやすく解説をしています。ぜひ参考にしてみてください。
目次
金融系SIerの仕事内容
金融系SIerの仕事内容は、銀行、証券会社(保険会社も含む場合がある)の業務システムの開発です。金融機関の職員が使用するシステム、一般消費者が使用するシステム、両方が対象ですが、案件数、需要としては圧倒的に職員が使用するシステムの方が多いでしょう。
言語はJavaが中心でした
私自身も銀行、証券会社で職員が使用するシステム開発案件に参画していました。言語的にはJavaが多く、私が参画したプロジェクトはすべてJavaが中心でした。システム自体はすでに完成しているものが多く、顧客業務の変更に応じて書き換えたり機能追加するような仕事が多かったです。
たとえば選択項目が増えたらデータベース、配列に項目追加する、紐づいているフラグや変数を少し変える、などの作業が多いです。もちろん大規模にシステムを改修して新しいロジックをどんどん追加していくようなこともありましたが、基本的には既存のシステムを現場ルールに従って書き換えていくイメージです。
システムは業務システムの中でも特にバグが許されないシステムで、トラブルが発生すると世間を賑わせるニュースになってしまいます。そのため機能性の高いシステムを実装するよりも、とにかく安全性の高いシステムが求められています。
的に要件定義、設計、テストといったプログラミング以外の工程に力が注がれています。
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上流工程と下流工程で作業内容が異なる
金融系SIerの作業目的や仕事の進め方は上記の通りですが、担当が上流工程か下流工程かで作業内容が大きく異なります。
上流工程の作業内容
上流工程とは、作業フローの中で先行して行うものを指しており、具体的には「要件定義」「基本設計」「詳細設計」などが該当します。要するにプログラミングよりも上の工程です。これらの工程では特に業務知識が重要で、金融機関の担当者と綿密な打ち合わせを行い、システムを提案したりそれを設計に落とし込んだりします。
顧客がどのような業務を行っているのか、どのようなシステムを作れば最大限業務効率化できるか、といった視点が不可欠です。また実装不可能な提案をするわけにはいかないのでプログラミングの知識も必要ですが、細かいロジックなどは下流工程のプログラマーが考えるケースが多いため、実現可能か、実現可能ならどのくらいのステップ数、規模感になるか、といったことが判断できれば問題ありません。
業務知識とプログラミング知識を持って、ユーザーと開発者の間に入るイメージです。
下流工程の作業内容
下流工程は「プログラミング」「テスト」など実際に手を動かしてシステムを作る工程を指します。場合によっては、詳細設計も下流工程が担当します。上流工程から降りてきた仕様に従って、漏れなく正確なシステムを作ることが求められます。
技術的には特殊なことをするというよりは、現場の開発ルールに照らし合わせて違和感のない形で作業を進めます。逆に言えば、機能性が高くても他のシステムと明らかに異なる実装方法は好まれません。
バグのリスクを最小限にするためには、なるべく既存のシステムを踏襲するのが無難だからです。
金融系SIerエンジニアの1日の作業内容
上流工程と下流工程で多少異なりますが、基本的に1日の大半はパソコンに向かってなんらかの作業をすることになります。よく上流工程はコミュニケーション能力が重要、仕事の多くは対人でのコミュニケーションといったことが言われますが、そうでもありません。
たしかに下流工程に比べると顧客やプロジェクト内のエンジニアとコミュニケーションを取る機会は多いですが、たとえば要件についての話し合いだったり、スケジュールといった必要な部分でコミュニケーションを取るだけです。
ミーティングなども各自が作業した内容を共有しているだけなので、上流工程も下流工程もミーティングがメインではなくあくあまでもメインはシステム開発のための作業です。
上流工程なら仕様書や設計書の作成、下流工程ならプログラミングやテスト、1日の大半はこれらの作業に充てて、必要に応じて顧客やプロジェクト内でミーティングを行います。その際上流工程の担当者は指揮を執ることが多いので、下流工程よりは多少ミーティングのための準備が多くなったり、話す機会が多くなったりはします。
金融系SIer現場の実態
仕様変更が多い
金融系SIerの開発現場は、とにかく仕様変更が多いです。仕様変更は顧客側の提案から発生することが多いため、顧客からの仕様変更依頼が多いということです。理由としては、金融機関の業務が忙しいことや、システムに完璧さを求めることが挙げられます。
要件定義の段階である程度システムの方向性は固まっているのでそこが大幅にぶれることは少ないのですが、たとえばできあがった設計書を見て少し仕様を変えることになったり、ソースコードを見て仕様変更が提案されることもあります。
現場からすると大変なのですが、実際設計書もソースコードもない段階で完璧な仕様を作るのは難しいので、ある程度の仕様変更は仕方がないという感覚もあります。それにしても金融系SIerの現場は仕様変更多めです。
炎上案件多め
仕様変更が重なるだけでなく、そもそも納期や人員的に条件が厳しいプロジェクトが多いです。そこにさらに仕様変更が重なるので、結果的に炎上案件になりがちです。
給与は高め
金融系SIerはSIerの中でもどちらかというと大変な部類ですが、その分給与は高めです。SIerの中でとにかく稼ぎたいのであれば、金融系をおすすめします。
離職率も高め
金融系SIerは給与が高めですが、それでも離職率高めです。離職理由としてもっとも多いのは、単純に大変だからです。実際私がプロジェクトにいた頃も定時が21時と言っても過言ではない状況で、特に納期前は泊まり込みも多かったです。
また作業的にも開発だけでなく上流工程なら資料や設計書の修正、下流工程ならテストが消化できずに作業が続くようなことも多いです。単に大変なだけでなく、ルールに従ってやっているだけの作業も多いため正直あまりモチベーションが上がらないというデメリットもあるでしょう。
あとは、業務知識よりもプログラミングの勉強がしたいということでWEB業界やゲーム業界に転職していく人も多かったです。
プログラミングより業務知識が重視されている
SIer全般に当てはまることですが、プログラミングよりも業務知識が重視されており、上流工程になれば特にその傾向があります。
多重請負、偽装請負で労務管理、指示系統が曖昧
SIerの現場は、仕事を請け負った企業がさらに下請け企業に仕事を流したり、業務委託契約なのに実態は派遣契約のようになっている、といったことが多々あります。つまり労働条件の土台が法的にグレーゾーンで、結果的に労務管理や指示系統の責任の所在が曖昧になりがちです。
それがすべてではありませんが、契約が曖昧になっている影響もありエンジニアにとって労働環境が悪くなるケースもあります。
私が金融系SIerに就職した理由
上で説明してきた通り金融系SIerはメリット、デメリットもあります。世間のイメージとしては、むしろデメリットの方が際立っているかもしれません。
私自身金融系SIerに就職した際、金融系だけでなくSIer全般、もっと言えばIT業界についてあまり詳しく知りませんでした。一応ある程度就職前に下調べはしていたのですが、以下のような誤った解釈をしていました。
「メーカー系は業界的にSE主体で、比較的大手なら待遇が良くてスキルアップもできる」「ユーザー系のSEは間接部門だから社内での立場が良くない」「独立系、WEB系ベンチャーは当たり外れがあり外部からは判断できない。また優良企業は高いスキルが求められるので自分の現状だと厳しい。」
全体的に認識が誤っているかと思いますが、特に独立系SIerとWEB企業をなぜか混同しており、今考えると随分理解が浅いまま就職したと思います。
つまり私が金融系SIerに就職した理由は、「メーカー系SIerだから待遇が良くてスキルアップできる。金融の知識も身に付いて将来の役に立つ。」といった勘違いです。100%これが間違いというわけではありませんが、当時の私の認識と実態は乖離していました。
今の認識は上で紹介してきた通りです。特別なスキルが身に付くというよりは、あくまでも業務に必要なスキルが身に付き、作業的には上流工程から下流工程まで基本的には地道なものです。
金融系エンジニアに向いている人とは
金融系エンジニアに向いている人は、業務量が多かったり労働時間が比較的長くても、ミスなく地道にコツコツ作業できる人です。またプログラマーの中には好きなことだけやりたい、スキルアップにつながることだけやりたい、という方も多いかと思います。
金融系SIerでは作業内容が必ずしもプログラミングのスキルアップに直結するわけではなく、むしろ資料整理やテストなど地道な作業も多いです。これらの作業に忍耐強く取り組めないと、苦痛が大きくなって離職につながってしまう可能性があります。
金融系SIerエンジニアの将来性
上で説明した通り、SIer全般が偽装請負、多重請負などにより問題視されています。また今後AI化等技術の進歩により、必要人員が減っていくという指摘もあります。こういった環境下において、金融系エンジニアは比較的将来性があると言えるでしょう。
金融システムは需要が大きく、また業務知識が他の業界よりも重宝される傾向があります。理由としては、業務が多少複雑な分勉強して知識習得するまでに時間が掛かるからです。つまり他の業界のSIerよりも潰しが利きやすいです。
就職に有利な資格6選
ここまでの記事を読んで、金融系SIerに興味を持った方もいるのではないでしょうか。
そういった方に向けて、金融系SIerの就職・転職に有利になる資格を6つご紹介したいと思います。
外務員検定
銀行や証券会社、生命保険、損害保険などの金融機関で顧客に対して株式や有価証券、投資信託などの営業・販売の業務を行う職種のことを、証券外務員といいます。
そんな証券外務員として仕事をするのに必要なのが、日本証券業協会が認定する公的資格である証券外務員資格です。
これがなければ金融商品の営業・販売は行えないため、銀行や保険会社では多くの人が取得しています。
銀行業務検定
銀行業務検定協会が運営している、銀行や保険などの金融機関で働く行員の業務のスキルや知識を認定する試験が銀行業務検定です。
法務・財務・信託証券・外為などの様々なジャンルで、20以上もの種目の検定があります。
3級からあるものも多いので、まずは難易度の低い級からチャレンジしましょう。
日商簿記検定
日商簿記検定は日本商工会議所および各地商工会議所が認定する公的資格で、年間で40万人を超える受験者を要する知名度の高い試験です。
簿記に関するスキルを問うもので、会計・経理の業務の上では2級以上があると良いでしょう。
1級の合格率10%と難易度も高い検定ですが、1級を取得できれば金融系SIerでも即戦力として期待されることがあるかもしれません。
AFP
AFPはアフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナーの略であり、日本FP協会が運営しています。
ファイナンシャルプランナーとしての知識やスキルを問われる検定であり、同じFPの知識を問う国家資格であるFP技能士2級と同レベルの合格率だと言われています。
AFPを取得したあとは更に経験を積み、上位資格であるCFPの取得を考えるのもよいかもしれません。
証券アナリスト
証券投資の分野で企業評価のプロフェッショナルとされるのが、証券アナリストです。
金融の高度な専門知識を要し、資本市場の分析・評価や投資の助言・管理を行うのが主な業務で、そんな証券アナリストの知識を認定する認定資格として日本証券アナリスト協会が運営しています。
金融系SIerの就職の際に金融の知識を証明できるのはもちろん、一般事業社のIRや投資の部門でも役立てられるため、ステップアップにはおすすめの資格です。
公認会計士
医師や弁護士と並んで3大国家資格と呼ばれる公認会計士も、会計に関するスペシャリストとして金融系SIerへの就職にも有利になります。
会計監査に携わる職種・資格のトップと言ってもよい資格で、財務や経理、コンサルティングから独占業務である財務諸表の監査まで行うのが公認会計士の仕事内容です。
活躍の幅が広がる資格ですが、難易度は高く、平均して10%程度の合格率になっています。
金融系SIerのまとめ
金融系SIerの業務は大変さもありますが、その分給与や身に付く業務知識面でメリットがあります。ただしSIer全般が厳しい状況にあるのは事実で、生涯SIerに勤務する人生設計はあまりおすすめできません。
とはいえSIerで働くこと自体を否定しているわけではないので、転職やフリーランスも視野に入れた上で働くのであれば問題ないでしょう。SIerで働きながら自分でもスキルアップに力を入れる、自分に何ができるのか考えつつIT市場全体に目を向けていく、といったことを少しでもやっていれば、SIerで身に付けたスキルが役立ち、仮にSIer業界が終わったとしてもすぐに別の選択肢を選べるはずです。